第一章


『良いことを教えてあげる。君の仲間が、この海の何処かにいるよ。…仲間を見つけられたら、人間に戻れる…かもね?』

またしても声の主は、悲しそうな声色で話した。幾度と無く同じことを言っていたかのように。
だが少しの希望でも、今のコルアは信じるしかなかった。

「それは、本当なのか?」
『…さあね?君みたいに、元の世界では人間だった…。そんな奴は今までたくさん来たよ…。この話をしたらみな皆、出口を求めて冒険に出る…。だけど、ここから出れたなんて話……僕は一度も聞いたことがない……。』

「……。お前は…ここから出たいとか、思わないのか?」

突然の投げかけに、動揺した声の主。
でも、今度はもの凄く悲しそうな・・・泣きそうな声で話し始めた。

『僕だって…出来る事なら…この海より、もっと広い世界へ行きたい…。
けれどそれは、夢でしかないんだ。この海から…誰も出られやしないんだから……。』

何かを含んだような・・・悟っているかのような話し振りだった。
それを察したのか、コルアはもの凄く怒りを露にしていた。

「そんなことないっ!!
出口があるという可能性がある限り、俺は出口を探す冒険に出る!!」
『……どうして?』
「え?」
『…どうして…本当にあるかも分からない出口のために、そこまでするの?…へたしたら…死ぬかもしれないんだよ!!』

「………。」
『………。』

お互いに無言が続いていたが、コルアが先に沈黙をやぶった。

「…怖いのか?」
『………。』

「死ぬのが、怖いのか…?だから…出口を探さずに、こんな所にいるのか?」

『違うっ!!!!僕は…ここに来た時から、死んだようなものなんだ!だから…今更、死ぬのなんか怖くない!!!ただ…ここの海の怖さを知っているから……。 だから僕はここを離れない。誰も…この海の神【アクア】には…さか逆らえないから……。』

「…神…?」
『きっと、今まで出口を探していた冒険者は、神によって罰を受けたんだ…。 だから誰も、出られなかったんだ……。』

「…確かに出口は可能性でしかない…。…絶対あるなんて保証は、何処にもない…。 けれど…可能性があればそれだけで、頑張れる!!初めから無いと言われているわけじゃないんだから……!」

声の主の口調が冷静になった。